西アジアにおける考古遺跡のデータベース化の研究衛星画像解析による探査法 |
研究代表者 松本 健(国士舘大学教授) |
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西アジアにおける遺跡の調査は19世紀の中頃から主として欧米の探検家・考古学者・碑文学者・建築史学者などによって進められてきた。日本も1956年以降、年々数多くの調査団が派遣されるようになり、近年では年間10の調査団が派遣されている。
メソポタミアの一部では中心的な遺跡を発掘調査しながら、周辺の遺跡の分布調査をも進め、交易路や文化拡散の研究が進められているところもある。しかしながら発掘調査も代表的な遺跡の一部に留まり、西アジア全土に分布する遺跡の全体を把握するに至っていない。国士舘大学は1970年以降、イラクの西南砂漠遺跡群、ハムリン盆地遺跡群、ハディーサ遺跡群、エスキ・モースル遺跡群を発掘調査してきた。そして古代都市キシュの発掘調査は、1989年以降実施している。またイラクを含め各国が調査団を派遣して、メソポタミア文明解明の探求を日々進めている。今日、宗教的、民族的対立が表面化している中で、さらに中東研究が注目されている。
しかしながらイラクは政治的に不安定で、紛争や戦争が絶えず、発掘調査は中断したままである。その間にも貴重な文化遺産が今も破壊・略奪され、日常的に盗掘も各地で行われている。こうした厳しい現状の中では、遺跡の破壊や盗掘を防ぎながら、調査研究を進めていくということが重要課題である。それにはまず遺跡の警備を強化することであり、具体的にはパトロール隊を創設して遺跡や歴史建造物を管理、警備することである。同時に遺跡や歴史建造物、無形文化遺産などの調査を進め、まずそれらのデータベースを作成することが求められる。このような文化遺産のデータベースを作成することがすなわち文化遺産を保護することであり、その国のアイデンティティを確立することであり、それが研究や教育の基本となる。
しかしながら治安の悪いことや、人材、経費などの問題から、意図するような文化遺産の分布調査が現地で十分にできないのが現実である。そこでイラク戦争後に衛星画像や詳細な地図が公開されるようになってきたことを活かし、また今までの我々の30年以上に渡るイラクでの調査実績を合わせて、衛星画像から遺跡の状況を分析し、そのパターン遺跡の認定また性質が推定できる研究を行う。また現地イラクの研究者のネットワークによって遺跡や歴史建造物の確認を並行して進めていく。その地域はセム系アッカド人のキシュ、アモル人のバビロン、アッシリア人のモースル地域、アラブ人のバグダッド、そしてセム族源郷のビシュリ山系地域を中心とした文化遺産の研究である。加えてその衛星画像解析を取り入れたデータベースを文化遺産の管理及び保護に役立てる。
1. |
メソポタミアですでに調査されて、登録されている遺跡を衛星画像によって解析を行い、それから得られた情報から遺跡のパターン化することを試みる。同時に文献を含む参考資料をもデータベースに入力する。
衛星画像の入手単位が121Km2範囲であることから、地理的、文化的、歴史的に特徴的な(1)中南部イラクバビロン・キシュ遺跡周辺(セム系アッカド文化圏)、(2)南イラクのウルク遺跡周辺(シュメール文化圏)、(3)中部イラクのバグダッド周辺(イスラムアッバス朝及び現在の首都)、(4)北部イラクのモースル地域(アッシリア文化圏)、(5)上記の文化圏の文化遺跡の画像分析を活かして、また他の分野のシリアのセム系源郷ビシュリ山付近の分布調査を活かして、この地域の特徴的な遺跡群の、位置、範囲、形、色、高さ、植生、堆積物やその状況などから解析し、パターン化を試みたい。 |
2. |
イラクの場合は入国が困難なところからイラク考古遺産庁研究所とのネットワークによって、実際にイラクのこう古学者が現地に赴き、遺跡の有無やその状況、遺跡名、時代など確認しながらデータベース化を進めていく。 |
3. |
イラク以外の西アジア各国に赴いて特徴的な環境、地域、遺跡を実見し、人々の住む都市、集落のパターン化、遺跡のパターン化を進め、同時に他分野の研究成果と合わせてメソポタミアの遺跡のデータベース化を確実にする。またその成果を活かして、より詳細な解析をさらに進め、またイラクのみならず西アジア各国の遺跡データベース化を進めていく。 |
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