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 本研究の趣旨 
 ここに一枚の中東地図があります。
 ご存知のように、中東の歴史、特にその前半部分の歴史は、北メソポタミア山麓地帯、即ち、「肥沃な三日月地帯」を舞台に展開してきました。
 しかし、その歴史を詳しく紐解いてみますと、例えば、メソポタミアには、マルトゥやアムッルなどと称される遊牧民が、シリアやパレスチナには、アモリやアラムなどの遊牧民が、盛んに流入してきたことが分かります。
 彼らは単なる遊牧民ではなく、それぞれの流入先で都市を建設し、バビロニアやアッシリアといった大国をもうち立てました。
 これらセム系遊牧民の原郷と考えられているのが、 この、ビシュリ山系です。
 本研究は、このビシュリ山系をフィールドに、セム系部族社会の形成過程を解明することをめざしています。
 本研究の意義は、古代文明でもなくイスラームでもなく、その両者を貫く「部族性」をキーワードに中東の歴史と社会を読み解くこと、にあります。
  現代の中東都市も、遊牧社会に由来する「部族性」を内包しています。その意味で、本研究は現代的な課題にも有益な情報を提供するものと考えております。
 本研究が着眼するのは、中東の都市には、依然として部族社会の原理と枠組みが内包されている、という事実です。
  都市に内包される部族性とは何か、具体的な事例を挙げて、説明しましょう。