ユーフラテス河中流域とその周辺地域の住民に見られる形質の時代的変化 |
研究代表者 石田英実(滋賀県立大学人間看護学部教授) |
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西アジアは西でヨーロッパに接する地域であると同時に、南ではアフリカにもつながる。そのため先史時代からそれらの隣接地域から様々な影響を受けてきたが、独自性も強く、農耕・牧畜の始まりはこの地域がもっとも先進的であったし、国家や文明の形成においても同様である。このような世界を構築してきたのはどのような人々であったのか、またかれらの形質はどのようにして形成され、維持されてきたのか。このような観点からユーフラテス中流域を軸に西アジア人の時代的変容に迫るのことが本研究班のテーマである。
これまで西アジアでおこなわれた自然人類学的研究を振り返ると、その開始は欧米の研究者による。しかし、第2次大戦後は日本人研究者も調査、研究に参加することとなった。その中で東京大学西アジア調査隊が先陣を切り、その後ネアンデルタール人骨の発掘を目指した東京大学隊、京都大学隊があり、より新しい時代の古人骨調査や研究は、筑波大学や国士舘大学などの調査隊の中でおこなわれてきた。
本研究班の当面の課題は、藤井秀夫を代表とする国士舘大学隊が日本に持ち帰ったメソポタミア古人骨標本を中心として、欧米や西アジア各地に散在する古人骨標本のデータベース化と分析をおこないつつ、ユーフラテス河中流域のビショリ山系からの発掘される古人骨の分析に備えることである。
平成17年度の研究では、上記の国士舘大学隊が持ち帰った古人骨標本について、X線CTスキャナーによるデジタルデータ化を開始する。同時に欧米、西アジアに保管されている西アジア由来の古人骨標本の調査を始める。合衆国においてはシカゴ大学、イエール大学、アメリカ自然史博物館、ヨーロッパにおいては大英博物館やパリの人類および自然史博物館をはじめとして、ドイツ、イタリア、スイスなどの博物館と大学に赴き、西アジア由来の古人骨標本の数量や保存状況を調査する。
国士舘大学隊が日本へ持ち帰ったメソポタミア出土の古人骨標本は、この地域に関連するコレクションとしては世界最大級であり、その総数は数百体におよぶ。この標本の3次元デジタルデータからは、メソポタミア地域住民の形質に見られる時代的変遷の分析が可能となる。分析の視点は、生業、食性、それに成長をはじめとする住民の生活に関連する適応性と、イラク中部のハムリン盆地を中心とした地域集団の形成である。
今年度の成果として、第1に、古代メソポタミア人の咀嚼器官や骨成長の特徴、ハムリンの地域集団の形質特性についての概略を把握することであり、第2の海外での古人骨標本の調査からは、それらの量的、また質的な状況を知り、欧米研究者との議論から世界的に見た西アジア古人骨研究の現状をより深く捉えることである。 |
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