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文部科学省科学研究費補助金 「特定領域研究」 Newsletter No.1 (2005年9月号)より
セム系遊牧部族の墓制に関する比較研究 
研究代表者 藤井純夫(金沢大学文学部教授)
 セム系部族社会の形成過程を解く鍵は、新石器時代の後半から青銅器時代にかけて成立した初期遊牧文化にある。このことは、よく知られている。しかし、この分野の研究はきわめて低調で、遺跡調査すら満足に行われていない。理由は二つ。第一に、集落を形成する農耕民とは異なり、遊動生活を送る初期遊牧民の遺跡を確認することは、容易でないからである。第二に、遺跡がうまく確認できたとしても、沙漠の中での調査には様々な困難が伴うからである。そのため、セム系部族社会の原点とも言うべき先史遊牧文化(特に前・中青銅器時代の遊牧文化)の具体的な内容は今もって明らかになっておらず、定住都市・農村社会の側からの間接的な言及だけがほとんど唯一の手掛かりとなっているのである。この状況を打破しない限り、セム系部族社会の形成過程を解明することは困難であろう。

 そこで本研究班が着目するのが、彼らの墓制である。集落を形成しない遊牧民も、墓だけは造る。しかも、かなりしっかりした石積みの墓を造る。この墓から、マルトゥ(Martu)やアムッル(Amurru)たちの足跡を辿ることはできないだろうか。幸いなことに、ステップ・沙漠地帯に点在する初期遊牧民のケルン墓は部族単位で造営されているので、遊牧部族社会の形成過程を追跡するには格好の手掛かりとなる。問題があるとすれば、遊牧民の墓1件の持つ情報量の少なさであろう。遊牧民の墓では副葬品や埋葬遺体が出土しないことが多いので、年代決定すらままならない。こうした難点を補うためには、複数のフィールドを横断する包括的な比較研究が必要であろう。 
タラアト・アビーダ第106号墓
タラアト・アビーダ第106号墓、ヨルダン南部ジャフル盆地(2004年夏、筆者撮影)

 本研究班の目標は、
1)西アジア各地における先史遊牧部族社会の墓制変遷を追跡し、
2)これを基に、セム系部族社会の形成過程を明らかにすること、にある。
対象となるフィールドは、バーディアト・シャーム(広義のシリア沙漠)の南北両端である。北端とは、つまり、シリア北東部のビシュリ山系。南端とは、この場合、ヨルダン南部のジャフル盆地を指す。この二つの地域の調査を機軸に、その周辺地域(サウジアラビア北部、シナイ半島、オマーンなど)の踏査も、可能な限り実施したい。
  沙漠に埋もれているマルトゥたちの足跡を具体的に捉えること----それが、本研究班の究極の課題である。