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文部科学省科学研究費補助金 「特定領域研究」 Newsletter No.1 (2005年9月号)より
西アジア乾燥地帯への食料生産経済波及プロセスと集団形成 
研究代表者 西秋良宏(東京大学総合研究博物館助教授)
 西アジアは多くの地域が乾燥地に分類されうるが、ここでいう乾燥地とは雨水のみによるムギ作農耕が安定的に実施できない、あるいはそれが不可能なほど降雨量が少ない地域のことである。いわゆる肥沃な三日月地帯の南側に広がる地域である。本特定研究が焦点をあてるシリア内陸部ビシュリ山系はそこに含まれる。
 西アジアは世界で最初に食料生産経済を発展させた地域である。これまでの研究は、その起源(一次的新石器化)の追求に偏向してき
た。したがって、現地調査も雨量豊富な地中海東岸地域やユーフラテス川上流など起源地と目される地域に集中している。これに対し本研究班が扱うのは、食料生産経済成立後に新石器人たちがどのようにして周辺地域の開発に乗り出していったか、逆に周辺地域の住人がいかに食糧生産経済にコミットしていくようになったかという二次的新石器化過程の解明である。ビシュリ山系をフィールドとして、この課題に取り組みたい。
農耕村落遺跡
シリア内陸部、ビジュリ山麓オアシスに点在する農耕村落遺跡
 乾燥地帯を食糧生産民が恒常的に開発するには、灌漑農耕や家畜遊牧など一層の技術発展、それらと狩猟採集との組み合わせなど独特な生業戦略が必要であったと考えられる。一方、オアシスを除けば資源総量も乏しく人口密度が希薄な地域であるから、そこに定着するには対内的、さらには天水農耕民をふくむ緒集団との対外的紐帯確立など社会戦略の工夫も求められたであろう。本研究は生業技術の発展だけでなく、社会関係にも視野を広げて乾燥地の新石器化を考察する点に特徴がある。
 内陸乾燥地への食糧生産民の最初期の進出様態が特に関心をひくのは、それが、灌漑なくして農耕不可能な南メソポタミアへの進出を準備した可能性がある点である。また、後代の粘土板文書にしばしば言及されるような部族的集団が形成される起点となった可能性もある。その研究は、西アジアに固有な文明形態、部族社会が確立したプロセスの原点を論じることに貢献すると考える。